三菱電機は、産業機器の劣化状態を少ない学習データで高精度に推定できる「物理モデル組み込みAI」を開発しました。自社製産業用ロボットでの実証では、従来手法と比べて学習用データを約90%削減しながら推定誤差を維持し、劣化の分類精度指標となるROC曲線の曲線下面積(AUC)で0.98~1.00を達成しました。従来技術のAUCは0.68~0.89で、本技術により大幅な高精度化が確認されたとしています。
日本の製造業では設備の高度化と技術者不足が進み、設備故障を未然に防ぐ予防保全の需要が高まっています。従来は、物理法則に基づく数式モデルやシミュレーションを専門家が一から作り込む必要があり、設計やチューニングに多大な時間と労力がかかることが課題でした。さらに、AIを用いる場合も運転パターンや個体差、設置環境などあらゆる条件を網羅するには膨大なデータが必要で、条件が変わるたびに再学習が必要となり、実用化の妨げになっていました。
今回の技術は、ロボット関節の動きから必要なトルクや外力を計算する「逆動力学モデル」などの物理モデルをAIに組み込み、あらかじめ機器の挙動を理論的に学習させたうえで、個体差や環境条件のみを少量の実測データで追加学習する方式です。物理モデルと実測データの重みづけをAIが動的に調整できるようにしたことで、学習時と異なる運転パターンや環境下でも物理モデル側が変動を補い、高い精度で劣化状態を推定できるとしています。
同社は今後、産業機器やロボットなど実機での検証を進め、2027年度以降の製品への適用を検討します。これにより、部品交換の削減や重大故障の抑制による保守コストの低減と、生産性・品質の維持への貢献が見込まれます。一方で、他社設備や多様な現場条件で同様の性能が得られるかなど、適用範囲の検証が今後の焦点となりそうです。
【技術・商品情報】
Maisart(AI技術ブランド)紹介サイト https://www.MitsubishiElectric.co.jp/corporate/randd/maisart/index.html
問い合わせ窓口:三菱電機株式会社 情報技術総合研究所(神奈川県鎌倉市大船五丁目1番1号)
source: PR TIMES
