小川洋子さんの長篇小説『サイレントシンガー』(文藝春秋、2025年6月30日発売、税込1,980円)が、第67回毎日芸術賞を受賞しました。対象は文学を含む芸術分野で、優れた業績を挙げた個人・団体を顕彰する賞です。
受賞作は、著者にとって6年ぶりの長篇で分量は400枚。舞台は「アカシアの野辺」と呼ばれる、沈黙を愛し指言葉で会話する土地です。そこで育ったリリカが歌うことを覚え、その歌声が出会いや恋を含む人生の転機を動かしていく物語だとされています。専門的には、言葉の不在や沈黙が意味を持つ「沈黙のモチーフ」を物語の推進力に据えた作品といえます。
小川さんは本作を「ただひたすらに静かなだけの小説」と述べ、言葉を手放すことで「肉体に刻まれた記憶」が呼び覚まされ平安に出会えるのでは、との願いを込めたと説明しました。一方で「言葉から遠ざかるための世界を言葉で描く」矛盾にも触れ、言葉の力に押しやられた人々に寄り添う小説を書きたいとも語っています。今後は、受賞を追い風に同作の読者層拡大や、国内外での翻訳・映像化など二次展開の動きが注目されます。
