京都大学大学院情報学研究科の梅野健教授は、1944年12月7日13時36分に発生した昭和東南海地震(M8.2)の直前、電離圏(上空の電気を帯びた大気層)で電子数密度が急増する異常が観測されていた可能性を示しました。異常は地震発生のおよそ1時間半前~1時間前に確認されたとしています。2025年12月20日の日本地震予知学会学術講演会(招待講演)で報告しました。解析に用いたのは、情報通信研究機構(NICT)が公開する戦前の手書き電離層観測記録「イオノグラム」です。イオノグラムから得られる臨界周波数の上昇は、電離圏の電子数密度増加を示す指標で、当日は東京都国分寺の12時観測と神奈川県平塚の12時30分観測で急増が読み取れるとしました。南海トラフ巨大地震の前兆研究は従来、地殻変動に伴う「プレスリップ(前兆すべり)」など地上側の記録に偏りがちでしたが、当時の観測網の記録が残っていたことで電離圏データという検証材料が加わる可能性があります。一方、地殻の変化がどのような物理過程で電離圏に影響するかは未解明で、因果関係の検証が今後の課題です。将来の南海トラフ地震を見据え、現代の観測機器で地殻変動と電離圏変動を同時に捉える取り組みが進むかが焦点となります。

Share.